津地方裁判所熊野支部 昭和61年(ワ)6号 判決 1988年1月28日
主文
一、原告(反訴被告)らと被告(反訴原告)らとの間において、原告(反訴被告)らが被告(反訴原告)らに対し別紙記載の交通事故につき支払うべき債務のないことを確認する。
二、被告(反訴原告)らの反訴請求をいずれも棄却する。
三、訴訟費用は本訴反訴を通じて被告(反訴原告)らの負担とする。
事実
第一、当事者の主張
(本訴)
一、請求の趣旨
主文第一及び第三項と同じ
二、請求の趣旨に対する答弁
1. 原告(反訴被告、以下「原告」という。)らの請求を棄却する。
2. 訴訟費用は原告らの負担とする。
(反訴)
一、請求の趣旨
1. 原告らは各自被告(反訴原告、以下「被告」という。)中川定子に対し金二六八〇万五七二一円、同中川直芳に対し金九八五万九七〇〇円、同中川英治に対し金一五四〇万二八六〇円とこれに対する昭和六一年六月六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二、請求の趣旨に対する答弁
主文第二及び第三項と同旨
第二、当事者の主張
(本訴)
一、請求の原因
1. 別紙記載の交通事故が発生し、被告らの被相続人である亡中川一郎(以下「亡一郎」という。)が死亡した。
2. 原告日本通運株式会社(以下「原告会社」という。)は甲車を所有し自己のため運行の用に供していた。甲車の運転手原告真砂は本件事故現場の道路左側面に約八〇センチメートル程はみ出した状態にて新宮方面に向け駐車していた。
3. 亡一郎は平坦で直線の進行片側二車線のセンターラインより道路側帯まで六メートル五五センチメートルの幅広い見通しのよい本件道路を、雨が降っていたのでメガネがぬれることと高速で走行していたことも加わって他に先行並進する車輌もなかったことからかなり前かがみの運転姿勢にて漫然と原付自転車を運転走行したことにより、道路側帯から僅か八〇センチメートル車線にはみ出し駐車していたトラックの後部右端より五〇センチメートルの箇所に追突した。
亡一郎の運転していたのは原付自転車でもあり、進行道路はトラック右端よりセンターラインまで五メートル七五センチも幅広く空いており、原付自転車には前照灯もついていたので、亡一郎は前方を注視しておれば容易に回避することができたものである。
また、事故発生時にはトラックの駐車灯と非常点滅表示灯は点灯されていた。事故現場は空き地となっており何時でも大型トラックが止めてあると証人喜田が証言していることからすれば、毎日本件道路を通っている亡一郎もこの状況は熟知しているところである。
このように、亡一郎は原付自転車を運転するに際し車輌運転者としてもっとも基本的な注意義務である前方不注視の過失があったため本件事故をおこしたもので同人の一方的過失であり、かつ甲車には構造上の欠陥又は機能の障害がなかったから、原告らには何らの損害賠償責任がない。
4. 仮に免責の主張が認められないとしても亡一郎に前記の通り前方不注視、脇見運転の過失があるから過失相殺として亡一郎の損害は九割を減ずるのが相当であると思料される。
5. 被告中川定子は亡一郎の妻であり被告中川直芳及び同中川英治は子供であるので本件事故の損害金を相続している。
6. 被告らは自賠責保険から既に金一四七五万七四四〇円を受領している。
ところが被告らは右自賠責保険の支払い金の外に金五〇〇〇万円の支払を再三強く求めてきた。
7. よって、原告らは本訴において、被告らが要求する金員の支払い義務のないことの確認を求める。
二、請求の原因に対する認否
1. 請求の原因第1及び第2項は認める。
2. 同第3項のうち、事故現場が二車線で平坦、見通しがよかった事実は認め、構造上の欠陥又は機能の障害の有無については不知、その余は争う。
本件事故は、幅員六・六〇メートルの二車線道路の駐停車禁止場所で、新宮方向に向け一メートル程はみ出た状態で甲車を駐車させ、しかも駐車灯も非常点滅表示灯もつけなかった後方安全注意義務違反の過失によるものであるから、被告真砂は民法七〇九条の、被告会社は自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条の責任がある。
3. 同第4項は争う。
4. 同第5項は認める。
5. 同第6項につき前段は認め、後段は争う。
(反訴)
一、請求の原因
1. 本訴請求の原因第1、第2項と同じ
2. 被告会社は甲車を所有し、自己のため運行の用に供していたのであるから自賠法三条により、被告真砂は駐停車禁止場所に駐車灯も非常点滅表示灯もつけずに駐車をさせた過失があるから民法七〇九条により、被告らが蒙った損害を賠償する責任がある。
3. 損害額は以下の通りである。
(一) 亡一郎の逸失利益 金二三六一万一四四二円
亡一郎は事故直前の一年前に左記の合計金六〇二万九四八〇円の収入を得ていた。
(1)熊野市農業協同組合役員報酬 金一一万〇三八〇円
(2)普通恩給 金三三万八九〇〇円
(3)国民年金 金三八万〇二〇〇円
(4)中川建設給与 金五二〇万円
亡一郎の死亡時年齢は六四歳であるから、新ホフマン係数を五・八七四、生活費控除三分の一で計算した。
602万9480円×5.874×2/3=2361万1442円
(二) 葬儀費用 金六二一万四二八〇円
(三) 慰藉料合計 金三四〇〇万円
(1)亡一郎の慰藉料 金一〇〇〇万円
(2)被告定子の慰藉料 金一〇〇〇万円
(3)被告直芳及び同英治の慰藉料 各金七〇〇万円
(四) 弁護士費用 金三〇〇万円
4. 各被告らの請求額は次の通りである。
(一) 被告定子 金二六八〇万五七二一円
亡一郎の逸失利益及び慰藉料の各二分の一と被告定子本人の慰藉料との合計額
(二) 被告直芳 金九八五万九七〇〇円
亡一郎の逸失利益及び慰藉料の各四分の一、被告直芳本人の慰藉料、葬儀費用、弁護士費用の合計額から受領した自賠責保険金一四七五万七四四〇円を控除した金額
(三) 被告英治 金一五四〇万二八六〇円
亡一郎の逸失利益及び慰藉料の各四分の一と被告英治本人の慰藉料との合計額
5. よって、被告らは原告らに対し、右各金額及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である昭和六一年六月六日から各支払い済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うよう求める。
二、請求の原因に対する認否
1. 請求の原因第1項の事実は認める。
2. 同第2項につき、原告らに損害賠償責任があるとの主張は争う。
本訴請求の原因第3項で述べたとおり、本件事故は亡一郎の一方的過失によるが、少くとも過失割合は九割以上ある。
3. 同第3項につき、亡一郎が同項(一)の(1)ないし(3)を受領していたことは認め、その余は否認する。
4. 同第4項につき、自賠責保険から金一四七五万七四四〇円支払われたことは認め、その余は争う。
第三、証拠関係<略>
理由
一、亡一郎が本件事故により死亡したことは、当事者間に争いがない。
二、原告会社が甲車を所有し、自己のため運行の用に供していたこと及び原告真砂が国道四二号線の駐車禁止場所で路側帯から少なくとも約八〇センチメートルはみ出して駐車していたところに亡一郎が後部より追突したことは当事者間に争いがなく、そうであれば原告会社は自賠法三条により、原告真砂は民法七〇九条により亡一郎に生じた損害を賠償する責任がある。
三、亡一郎の逸失利益 金四五五万四一七六円
1. 成立に争いのない乙第四ないし第六号証及び被告直芳本人尋問の結果によれば、亡一郎は死亡当時熊野市農業協同組合理事として年間金一一万〇三八〇円の役員報酬、年間金三三万八九〇〇円の普通恩給及び年間金三八万〇二〇〇円の国民年金・老齢年金を受給していたことが認められる。なお、農協の役員報酬が定年もしくは改選により終生受給できるといえるのか否か、あるいは普通恩給が死亡により他の給付にかわったのか否かについては明らかでないが、死亡時まで受給するとして計算すると合計金八二万九四八〇円となる。
2. 被告直芳は、亡一郎に訴外中川建設より死亡前一年間に金五二〇万円を給与として支給されていた旨供述し、右供述にそう賃金台帳を証拠として提出するが、他方、それまでは支払う余裕がなかったので昭和五九年一一月まで亡一郎はただ働きをしたこと、中川建設は事業税を昭和六〇年度は金一二万円払ったが昭和六一年度は払っていないこと、亡一郎の給与については税務署には申告がなされていないこと等を供述しており、これらを総合すると、亡一郎に中川建設から年間金五二〇万円の給与が支払われており、右額が死亡時まで支払われるとは到底認められず、他にこれを認めるに足る証拠はない。よって、中川建設給与に関する被告らの主張は理由がない。
3. 亡一郎は死亡時六四歳であったから、平均余命は一五・一七年であり、これに対応する新ホフマン係数一〇・九八〇八、生活費控除二分の一で計算すると、金四五五万四一七六円となる。
82万9480円×10.9808×0.5=455万4176円(1円未満切捨)
四、葬儀費用 金九〇万円
原告らに負担させるべき葬儀費用としては金九〇万円が相当である。
五、慰藉料 金一八〇〇万円
被告らは、亡一郎の慰藉料の他に、近親者固有の慰藉料を請求するが、損益計算すべき自賠責保険金は被告直芳一人が受領していること及び慰藉料額を算定する際近親者に固有の慰藉料請求権を認めても、その分亡一郎の慰藉料額が減額されるだけであって結局被害者側として総額に変わりはないことからすれば、本件においては、亡一郎の死亡慰藉料として金一八〇〇万円と認定し、被告ら固有の慰藉料請求はこれを認めないこととする。
六、過失相殺
成立に争いのない甲第二号証、証人喜田和也の証言及び原告真砂正二、被告中川直芳各本人尋問の結果によれば、現場は見通しのよい歩車道の区別ある直線道路で、車道幅員七・二メートルで中央線によって区分され、その両側に車道外側線及び路側帯が設置されており、交通規制は最高速度が時速五〇キロメートル、駐車禁止となっていること、本件事故現場の空地には普段からよく車がとまっていたこと、亡一郎は、路側帯から八〇センチメートルはみ出して駐車していた加害者(大型貨物車)に追突したことが認められ、右道路状況及び事故状況を併せ考えると、亡一郎にも車両運転者としてもっとも基本的な注意義務ともいうべき前方注視を怠った重大な過失があったことは否定できず、前認定の諸般の事情を考慮すると、過失割合は原告真砂1対亡一郎3と認定するのが相当であり、計算としては亡一郎の損害の七割五分を減ずることとなる。(争点となっている加害者の駐車灯及び非常点滅表示灯について、原告真砂は事故当時点灯していた旨供述し、証人喜田及び原告直芳は点灯していなかった旨供述してくい違っており、熊野市消防本部からの回答によるも不明であるが、点灯していなかったとして前記のとおり過失割合を認定した。)
そして、前記認定の三ないし五の合計額金二三四五万四一七六円からその七割五分を減ずると、亡一郎の損害額は金五八六万三五四四円となる。
七、既払額 金一四七五万七四四〇円
被告らが自賠責保険から金一四七五万七四四〇円を受領していることは当事者間に争いがない。
そうすると、前記損害は既に全額填補ずみといわさるを得ない。
八、よって、その余の点につき判断するまでもなく、原告らの本訴請求は理由があるから認容し、被告らの反訴請求は失当として棄却し、訴訟費用については民訴法八九条、九三条を適用してこれを全部被告らに負担させることとして、主文のとおり判決する。